第一章 不公平な現実

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僕は匂いの元に向かって森の中を全速力で走っていた。はっきりと言って焦っていた。 匂いを嗅いだあの時、複数の匂いを感じたからだ。複数の小さい子の匂いと睡蓮園長の匂い、そして大量の血の匂い。 それを感じた瞬間、僕は気づけば「不滅の森」の中を走っていた。森の中は外の道よりも真っ暗で、普通の人には足元も見えない位の暗さだが、僕の目には昼間のように明るく見えていた。 足元に引っ掛かる木の根も走りながら足で引きちぎって、全速力でその場所に向かった。 息づかいが聞こえた。一人、いや二人だ。しかも、一人は呼吸がだんだん小さくなっていっているような気がする。 お願いだから。僕の頭の中で、この言葉がずっと繰り返されていた。 最悪の事態が頭の中を駆け巡らせながら、目的地の数メートルの場所で僕は足を止め、草むらに身を潜めた。 草むらの影からゆっくり覗くと、最悪の事態の上を行く光景が僕の目に飛び込んできた。 『・・・!』 そこには、凄まじい数の死体。大量の血が草むらの上を赤く染め上げていた。それを数人の大人が囲むように立っていた。 『おい、さっさと運び出せ。朝になる前に全部終わらせるんだ』 その声と姿を見て、僕は言葉を失った。そこに立っていたのは、黄郷先生。周りにいる黒人のゴツイ男達をまるで動物に命令するかのように指示していた。 『商品の外見はいいが、中身は傷つけるなよ。臓器が売れなくなるからな』 『了解しました、ボス』 『地面の掃除も忘れるな。この辺りを焼却するんだ』 商品という言葉ではっきりと分かった。僕は騙されていたんだ。いや、僕だけじゃない。「ひまわり」の連中も騙していたんだ。 優しいと思っていた。僕と同じ苦しみを持っていると話してくれた分、口うるさく言う睡蓮園長よりも信頼出来ると思っていたし、照れ臭くて本人には言わなかったが、「頑張れよ」と言ってくれた言葉は僕の心が洗われたような気がした。 でも、嘘だった。「ひまわり」での先生としての優しい顔も、僕に見せてくれた優しさも。 ああ、そうなんだ。この時、僕の腹の中の熱い熱を感じた気がした。気づくと、僕は草むらに隠れるのを辞めていた。 『ボス、まだ一人残っていました』 男の一人が言った。僕の存在に気づいた黄郷先生はニヤリと笑いながら僕に迫ってきた。その顔は相も変わらず、「ひまわり」で向けていたニコニコとした善人の顔だった。
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