第一章 不公平な現実

9/9

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
『やあ、龍見くん。ちょうど迎えに行こうと思っていたんだっと!』 『・・・!』 先生は僕の腹に力一杯蹴りを入れてきた。まるで、バットで殴られたかのような痛みが全身を駆け巡る。あまりの衝撃に僕は膝から崩れ落ちた。 『・・・』 自分でも分かる位に自然と涙が溢れていた。何が悲しいのか分からない。でも、今は睨むことしか出来ない。 『そう、怖い顔をするなよ。これもビジネスなんだよ』 『・・・ビジネス?』 『そう、ビジネスだ。先生は臓器を手に入れて、必要な人に提供して、お金をもらう。それで大勢の人が救われるんだ。悪くないだろ?』 『・・・あいつ等は救われていないじゃないか』 『あの連中は親もいないし、誰も必要としていない存在だ。先生達も含めてね。言ってしまえば、ゴミをリサイクルしてるんだよ。先生は正しい事をしてるんだ。君なら分かってくれるよな?』 『・・・』 『君はいつも周りと距離を置いて関わろうとしなかったし、先生達も含めて皆の事を虫けらとしか思っていなかっただろ?自分はこいつ等とは違うと思っていただろ?』 『それは・・・』 何も言えなかった。何が悔しいのか分からないまま、僕は唇を噛みしめていた。 『否定出来ないよな?先生には分かるんだよ。先生も昔はそう思っていたから君は先生と同類なんだよ』 『・・・』 『さあ、話は終わりだ。君も協力してくれるよな?君の命は様々な場所で、色んな人々の身体の中で生き続ける。永遠に。さあ、おいで』 先生はそう言って、僕の頭を撫でる。その表情は今までで一番怖い笑みを浮かべている。 『・・・先生。一ついいかな?』 『ん?最後の言葉かい?いいよ、聞かせてくれ』 『この世界には正義なんて無いよ。あったら僕は、いや僕達は捨てられてない。正義なんて無い』 『・・・』 『だから、今から僕は僕の為に悪を行う』 『面白い事を言うね。一体、何を言って・・・』 僕は全身に力を入れた。全身に力が駆け巡り、血が熱湯のように熱くなる。全身の皮膚が血のように赤い鱗に変わった後、身長と体格があっという間に先生の三倍位の大きさになり、見下ろす形になった。 そして、背中の翼が周りの木々を揺らし、手足が象よりも太くなり、爪もナイフより鋭く尖り、恐竜のような尻尾が生えてきた。 『あ、・・・あぁ。な、何だよお前・・・』 『ドラゴンだ』 僕はそう言って、右手を振り下ろした。そして、辺りには血と死体と爪痕だけが残った。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加