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29.夜と姿
「ちょっと!」
私は慌てて呼び止めました。
「は……い」
「もしかしてあなたは……行方不明の」
どこかで見覚えがありました。
世界には自分と似ているが何人かいると言いますが、私はなぜか見た瞬間に確信したのです。
「そう……です」
「やっぱりっ!」
彼女は行方不明の兄妹、その妹の方でした。
私を彼女は当然知らないので呼び止め時には「誰ですか?」という顔をしていました。
しかし、私が次に何て言えば良いか考えていた一瞬でその顔は変わりました。
「もしかして……白坂……」
「河意を知ってるの!?」
「そう……ですか。河意の───」
私から「河意」という言葉が出た瞬間、やや視線を反らして悲しそうな表情を見せた彼女。
「河意に何かあったの!?」
更に不安は積み重なりました。
「いいえ、彼は大丈夫です。きっと、帰ってきますよ」
「そ……そう……。ならよかった……」
「どうしたんだよ、いきなり飛び出して……」
私の後を追うように長倉くん、そして中谷くんが玄関から出てきました。
「行方不明の人が……」
彼女の事について言おうと思ったときには、まるで風に拐われたかのように、音もなく姿を消していました。
「なん………だったのかな……」
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