4.髪を触る者

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4.髪を触る者

「ん…………」 眠りの世界から現実へと少しずつ戻る白坂。 朦朧とした意識の中で、温かさと髪の毛を触られる感覚が伝わってきた。 「…………きれい」 最初は風の仕業だと思ったようだが、実際には違った。 白坂の髪の毛を触った正体は……、 「あ……起きちゃった?」 由梨である。 白坂が眠った後に、白坂の頭の近くに座って起こさないように白坂の下に膝を潜らせていたのだった。 白坂が感じた温かさは由梨の膝であった。 「こ……れは……」 髪の毛の擦れる音を立てながら空を見ると、そこに輝いたのは太陽ではなく彼女の素敵な笑顔だった。 「おはよう」 「お……おはよう。ってこれはまさか」 「うん、そのまさかだよ」 白坂はすぐに膝枕であることに気づいたが、驚いて飛び起きたりすることはなかった。 それほどに心地よかったのであろう。 その空気を断ちきるようにチャイムの音が耳に侵入してきた。 「もう時間か……」 「ふたりでいるとはやいね」 白坂はゆっくりと体を起こす。 ふとお互いの視線が合って見つめあう。 また長い長い1秒。 白坂は一度大きく喉を鳴らすと、心に決める。 「き……キスしようか」 恥ずかしすぎて視線を反らしてしまう白坂。 「うん…………けど今はやだ」 「え……?」 白坂はショックだった。 あの時は彼女から仕掛けられてしまったため、今回はこちらからと踏み出した一歩は届かなかった。 すると彼女はベンチから立ち上がり、少し歩いてから白坂の方へ振り返る。 両手を後ろ手組んで言ったのだ。 「あの時は……その……勢い。でも嬉しい。するならその…………、いきなりしてくれた方が……私は……嬉しいかな」 彼女は白坂にそう告げると屋上を後にした。 「いきなり……か……」 再び空を見上げる白坂。 風に押されて雲が形を変えながら流れていく様を目で追う内に、 「あっ、やばいっ!」 授業開始のチャイムが鳴るのだった。
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