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■始まりの断片
俺は、真っ暗な空間にいた。
長方形の平面の光だけがぼんやりと辺りを照らしていて、そこに流れる映像をただ眺めている。
それはまるで、映画館にでもいるような雰囲気だった。
ふいに映像の中に現れた栗毛の少女。年の頃は十七才前後だろうか。
美人というよりは、かわいい感じの丸顔。髪型はショートのボブ。目の上あたりで前髪が綺麗に切りそろえられている。
瞳は琥珀色で、スクリーンには人懐っこそうな笑顔が映し出されていた。まるで、俺の方に笑いかけているように。
場所は野外のようだ。周りに見えるのは、手入れのされていない草木と轍の出来た赤土の道。
辺りが少し暗くなりかけている時間帯だ。
「&%$! ここにいたんだ」
彼女が誰かの名前を呼んだような気がした。だが、その部分だけが聞き取れない。
「ああ、ちょっと疲れを癒していた」
男の声がする。少女より少し上くらいの年齢だろうか? こちらはスクリーンには映し出されない。
「今の時間は眺めがいいよね。なんか落ち着くっていうか」
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