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「だって、勇者さまの土地で採れた作物だっていったら、少しは高く売れるんじゃないの?」
「農作物の相場はそんな単純じゃねえよ」
二人はわりと親しい関係のようだ。軽口を叩いているが、実のところ信頼を置いているのが感じ取れる。
スクリーンに映る視点が山の方から街道へと移り、そちらへと歩いて移動しているような場面だ。道の脇にはトネリコやビルケの生い茂った森があり、雰囲気としてはヨーロッパ辺りに近い。
後ろから、少女の甘えたような声が聞こえる。たぶん、男を追いかけてきたのだろう。
「あーん、待ってよぉ!」
その声が終わらないうちに前方の映像が歪む。いや、空間そのものが歪んだのか?
目の前の木々がぐしゃりと倒れ込み、そこに突然人が現れた。何かの魔法の類なのか?
そいつは茶髪のロン毛の優男。年は二十代前半くらいだろうか。切れ長の目に、すっと通った鼻梁。ややナルシストっぽさを感じる小さな唇。
煌びやかな金のプレートメイルと装飾の細かな銀の槍を持っていた。それがただの装飾品であっても、かなりの値段になるだろう。実用品であれば、伝説級の武具なのかもしれない。
「そこのおまえ?」
こちらを向いた優男が問いかける。
「俺ですか?」
いまだ姿の映っていない、このカメラの視点主であろう男が答える。
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