感情複製

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 朝の教室。友達と会話する人、今日の宿題を必死に終わらせている人、寝ている人。登校した生徒は皆それぞれに過ごしている。  そこへ彼女が入ってきた。 「おはよう!」 教室のだれもが彼女に挨拶をする。彼女の名前は紅累子。明るくて、このクラスの中心人物だ。男女ともに人気があり、いつも友達に囲まれている。装置を試すなら彼女だと思った。  私は、彼女に照準を定める。といっても、拳銃ではなく四角い飴の缶だ。ふたを外し、缶のくちを彼女に向ける。そして側面のボタンを軽く押す。  キュインという音の後、コンピューターの処理をしているような音がしばらく続いた。カラン、という音がして缶の中をのぞくと、一つの飴玉が生成されていた。  すごい、説明書通りに操作したら本当に飴玉が出てきた。これ、舐めても大丈夫かな。あの男の人、すごい怪しかったけど。でも、もう装置使ったし。  恐る恐る、飴を口に含む。と、その瞬間、口の中で何かがはじけた。  自分のものでない感情が流れ込んでくる。これは、喜び?友達との交流が本当に楽しいと思っているのがわかる。  私の人生ではこんなに楽しい感情なんて滅多に味わえない。これを何と表せばいいのだろう。感情が……おいしい?  いつの間にか舐め終わってしまった。何とも言えない喪失感。まるで心地のいい夢から覚めた後のよう。もっと味わいたい。  こんなの知ってしまったら、もう止められない。  そうだ。学校中の楽しそうに過ごしている生徒の感情、片っ端から味わってやろう。
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