始まり

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いつものように夜の街を巡回しネタを拾う。 楓は今日もてくてくと歩いていた。 何も情報を得られない事がほとんどだが それでも何もしないよりはいい。 今日も空振りかな。。。 楓はがっくりとしながらも  しょうがない。。とりあえず今日は 終電までで切り上げて・・ と駅へ歩き出した。 すると わあっと大きな騒ぎ声が耳に聞こえてくる。 なんだろう。。と目を向けると 二人の男が路上で殴り合いの喧嘩をしていた。 殴っている男は知っている。 柏木組のシマのスナックの店員で 何度か話をしたことがある。 いつもにこやかに刑事の俺にも優しく 声をかけてくれるような人なのに その形相は殺気立ち汗をダラダラ流しながら 目を血走らせ相手の男を殴りつけている。 その手はぶるぶる震えていた。 もしかして・・薬切れかもしれない。 あの類の様子は何度も見た事がある。 最近柏木組で薬を捌いている奴が いるかもしれないと情報を耳にして 探っていた楓はどうしよう・・・と思い悩んだ。 刑事として喧嘩を止める必要がある。 でも腕に全く覚えがないため自信がない。 それにここで逮捕しても黙秘されたら ただ使用で起訴するだけで売人まで 結びつかないかもしれない。 どうしよう。。どうしよう。。 近くまで寄ったはいいが何も出来ずに 佇む俺の横をすっと大きな身体が横切った。 あっという間に二人を一発で 汚い道路の上に沈める。 ゆっくりと振り返り 楓をじっと見た。 ああ。あの人だ。。 この間怒らせてそれからたまに顔を合わせても ずっと無視をされている。 高嶺は何も言わずその目だけで どうするんだと聞いている。 楓は首を振った。 今捕まえてもしょうがない。 この店員が薬をやっていることがわかったのだ。 尾行して取引現場を押さえて 売人を見つけたほうがいい。 高嶺は首をすくめ無表情のまま 踵を返して去っていく。 楓はその背中に向かってぺこりと 頭をずっと下げていた。
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