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高嶺はエレベーターを降り
久しぶりにそのオーセンティックバーへと
足を踏み入れた。
重厚な家具類に囲まれたその店は
気品と風格があり それでいて居心地のいい空気感で
以前からプライベートを過ごす場所として
とても気に入っていたものだった。
だがここに最後に来たのは随分前だ。
ただ思い返すと ついこの間のような気さえする。
それくらいここの所の時間の経過は
目まぐるしく あっという間に日々は過ぎていく。
その時間の経過は楽しいものばかりではなく
悩み苦しみ傷ついて
それでも少しずつ前へ前へと足を踏み出し
今 高嶺は幸せだった。
踏み心地のいい絨毯のような床を歩き
ゆっくりとカウンターへ近づく。
ああ。懐かしい。
すでに懐かしくなってしまっている。
あの時。そうだ俺は楓と。。。
カウンターに似つかわしくない
小さな身体がちょこんと座っている。
足が届かないのかぶらぶらと動き
まるで小学生が間違って紛れ込んだようだ。
マスターが俺に気付き 目配せをする。
楓はパッと振り向き
花が咲くような笑顔を俺にくれた。
あの時俺は相当仏頂面だったろうに。
苦笑いが止まらずついクッと笑う。
楓は不思議そうにその大きな瞳を
くるくると回し首を傾げてこちらを見ていた。
ああ。俺たちはここから始まった。
そしてこれからも続いていく。
隣の席に座りシングルのモルトを貰う。
楓が茶色い液体のグラスを持っていることに驚き
「楓。何飲んでます?それって。。」と
心配して問うと
マスターはくすりと笑って
「アイスティーです。」と答える。
何故アイスティーがウィスキーグラスに・・
俺の不審に思う顔を眺めて
楓はくすくすと笑い マスターと目線を合わせ
「内緒です。」と微笑んだ。
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