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「志望校への入学率がね、今通ってる塾より、あいつが通ってる塾の方がいいんだって。カリキュラムも充実してるし、今からでも変えたらどうかって進められたんだ。すぐにでもOKしたかったんだけど、費用の問題とかあるだろ?だからとりあえず親に相談してからって思ったんだ」
「…………マジ?」
「ふふっ……マジ」
「なんだよ……」
体中の力が抜けたように大悟はその場に座り込んだ。
「志望校に入る為に、お前との時間を割いてまで塾へ通ってんだよ?受からなきゃ意味ないだろ」
「…………」
「まぁ、もし告白されてたとしても丁寧にお断りしたけどな」
「……やっぱそうだよな」
「だって俺、大悟が好きだから」
思わず顔を上げる。
「俺は、大悟も同じ気持ちだと思ってたけど」
「え…………」
千紘はにっこりと微笑んだ。
「お前……告るの遅すぎ」
彼はそう言って、座っている大悟の額にデコピンをした。
痛いのに、なんだか嬉しくて、おでこがむずむずする。
火照る顔を隠すように俯き、額をさするその目の前に、すっと手が差し出された。
ちらと見上げると、顔を赤らめた千紘が、いつもと同じ柔らかい笑顔でこちらを見下ろしていた。
そっと自分の手を重ね、ゆっくりと立ち上がる。
そんな、甘い空気を裂くように予鈴が鳴り響いた。
「行こうか」
千紘はその手をそっと離して、くるりと背を向けた。
あまりにあっさりとした態度に胸の奥がもやっとする。
立ち止まったままの大悟に気付いた千紘が、振り向いてその名を呼んだ。
「どうした?」
「……」
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