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千紘の背中を見つめる大悟の横に、天使が静かに現れた。
「ありがとな」
「どういたしまして」
「お前の力とはいえ、やっぱ嬉しいよ」
「僕は何もしてないけどね」
「謙遜すんなって」
「ホント。あんなので呪文なんてかけられるわけないでしょ」
しばし沈黙。
「え!?」
振り返ると彼はにっこりと微笑んでいた。
「かけたとしたら、君のほうにかな?」
「…………」
「ほんの少し、勇気を持てるように」
「……それってどういう――」
「僕は天使なんだよ?心の中を見るなんて、すごく簡単なことさ」
「…………」
「特に、想う気持ちは溢れ出る。見に行かなくたってよく見えるんだ」
落ち着いた口調で話す彼はすべてを知っている様だった。
千紘の気持ちも――
「ひょっとして……オレのも?」
そう言いながら顔を上げて思わずぎょっとした。
「……な……んだよ、それ」
灰色の靄のようなものが、浮いている彼の周りを囲んでいた。
ふっと笑い、大きく翼を広げた瞬間、その羽根が同じくグレーに染まっているのに気付く。
今朝見たとき、その翼は確かに綺麗な白だったはずだ。
大悟の視線が自分の後ろにあることに気付き、天使はゆっくりと口を開いた。
「……これは裁かれるものの印」
「え…………」
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