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「こんなところにいた」
小さな声でそう言うと、千紘は大悟の隣に腰を下ろした。
図書館の片隅で、大悟は見慣れない分厚い辞典をゆっくりと捲っていた。
「めずらしいな。何見てんの?」
千紘がからかい半分で表紙をめくる。
「【天使と悪魔】」
「…………」
「ちょっと意外……こういうのに興味あるんだ」
「……いや、興味はない」
怠そうに、でも何かを探すように、その指は一枚また一枚とページを捲る。
千紘はつまらなさそうに口を尖らせたかと思うと、徐にスマホを取り出した。
続けざまに今度は大悟がポケットへ手を伸ばす。
取り出したスマホの画面を見て、思わず瞬きを繰り返した。
『暇なんですけど』
隣の千紘へと視線を投げるが、こちらを見る気配はない。
再びスマホが小さく震える。
『相手してくれなきゃ拗ねちゃうよ』
さらに。
『お腹すいたりしないのかな?』
小さく息を吐き出してもう一度横へと視線を向けるが、彼は相変わらずスマホを見たまま――と思ったら、ちらりとこちらを見て拗ねたように口を尖らせた。
一瞬唖然としたものの、今まで見たことのない彼の表情につい口元が緩んでしまう。
「……行くか」
重い本を手に立ち上がり、棚の間を縫うように歩く。
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