36人が本棚に入れています
本棚に追加
そして、難しそうな本ばかりが並ぶ元の棚へと丁寧に戻した。
何故こんなことをしているのか自分でもよくわからない。
それでも、彼のことを忘れてしまう前にもっと知っておきたいと思った。
「……まだ気になる?」
千紘がそっと尋ねた。
「…………別に」
言葉とは反対にその眼はまだ本を見つめている。
千紘は小さく息を吐き出して、ぎゅっと固く握った拳で大悟の背中を小突いた。
「っ……なんだよ」
「嫉妬してんの」
ドキリとして振り向くと彼はすでに歩き出していて、棚の角を曲がっていく。
大悟はちらりと本を見たものの、小さく息を吐き出して歩いていく千紘の後を追い掛けた。
昇降口に人の姿はなく、黙って靴を履き替える。
「……眩しいな」
先に外へ出た千紘が呟いた。
追うように外へ出て、大悟もまたその眩しさにくらりとする。
初夏の夕方――日はまだ高く、その光は明るく降り注いでいた。
「大悟」
不意に呼ばれてそっと目をあけると、振り向いている千紘と目が合った。
「行くぞ?」
正直、よくわからないでいた。
千紘が大切な存在だということはわかっている。
でもそれは、本当に恋愛感情なんだろうか?
あの時彼は同じだと言ったけれど、それは本当なのだろうか。
……天使と一緒に消えてしまったのではないだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!