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立ち尽くす大悟の横を誰かが通り過ぎた。
「千紘」
こちらを向いて立つ彼の元に、一人の生徒が近寄っていく。
「よう。今帰り?」
「おう。あのさ、お前から借りてるあれ、まだ借りてても平気?」
「全然大丈夫だよ。俺はもう読んだから」
「ごめんな。出来るだけ早く返すようにするからさ」
「気にするなよ。ゆっくりで構わないから」
「お詫びに今度なんか奢るな」
生徒は千紘の背中を軽く叩いて歩いていった。
少し離れたところからそれを見ていて、たったそれだけのことに苛っとする。
「早くこいよ。置いてっちゃうぞ」
そう言って手招きをする千紘を見て、大きく息を吐き出した……やっぱりあいつは俺のものだ。
ポケットに手を突っ込み、呼ばれるがままに歩いて彼の前を行き過ぎる。
千紘は慌てた様に隣に並ぶと、大悟の顔をちらと覗き込んだ。
「……あれ?なんか怒ってる?」
「別に」
「別にって感じじゃないだろ」
前へと回りこんだ彼に、その足を止める。
「大悟」
「……」
「大悟!」
「なんだよ!」
伏せていた顔を上げると、その眉間を千紘がぴっと指差した。
「ここ、皺が寄ってるよ」
その手をすっと払うと、大悟は小さな声で「嫉妬してんの」と言った。
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