【1】

8/9
前へ
/43ページ
次へ
真っ直ぐに自分を見つめる千紘の顔が浮かんで、はっと目を開けた。 「いやいやいや……」と呟く。 そんなことはない、あってはいけないと心の中で繰り返した。 「で……何?」 突然の声にそちらを向く。 ベッドの脇から、少年がひょっこりと顔を覗かせてこちらを見ていた。 「願い事。決まった?」 「……んな簡単に決まらねえよ」 「そう?さっき何か思いついたみたいだったけど」 その台詞に思わず彼の顔を見る。 痛いところを突かれた気がするのは何故だ? 「思いついてなんかねえよ。っていうか、なんでいるんだ?」 「なんで……って、他に行くとこないもん」 「お前天使なんだろ?その辺をふらふらしてりゃいいじゃん」 「そんなの嫌だよ。っていうか今、翼ないし。今夜は雨だから外なんかにいられないよ」 拗ねたように頬を膨らます少年に目をぱちくりとさせる。 「……今夜雨降るの?」 「降るよ」 「…………」 「嘘だと思うかもしれないけどホントだよ。わかるもん」 お得意のドヤ顔に「好きにしろ」とだけ言って、大悟はごろりと背を向けた。 夕食時、少年はごく当たり前のように大悟と一緒に食卓を囲んでいた。 記憶はいくらでも操作が出来るらしく、天使なのにその姿が見えるのは、翼がないからだと彼は言った。     
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加