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【1】
いつもの通学路。
そのど真ん中に何か落ちていた。
その前で足を止め、しばらく眺めていたが、誰も気付かないようなので拾ってみた。
見た感じ、テストではなさそうだ。
このサイズだと落とした本人は気付いてないだろう。
個人情報のどうのこうのはこの際いいかと判断し、皆川 大悟はそれをゆっくりと広げてみた。
そしてそこに書かれた文字を読み上げた。
「あたり」
首を傾げる。
何が?と思いながら、紙の裏表をもう一度見返していたその時――
「大当たり~!!」
辺り一面に響いた大きな声に、思わずその方向へ顔を向けた。
少年が空から降ってきた。
冷静に脇へひょいと避ける。
彼は上手い具合に足からすとんと着地してみせた。
「おめでとう!君が当たりだよ!」
少年はにっこりと笑いながら、大げさに両手を広げた。
目をぱちくりとさせて、再び空を仰ぐ。
「……どこから降ってきたんだ?」
「天国だよ!」
ゆっくりと視線を落とすと、彼はにこにこと笑いながらこちらを見上げている。
「どこからきたんだ?」
「天国だよ!」
「……暑さでやられちゃったか」
大悟はそう呟いて学校へと足を向けた。
少年はぐるりと前に回りこむと、ストップと言いながら両手を突きだした。
「本当だよ!僕、天使だから!」
「あぁそうなんだ。そりゃすごいや」
特に止まるでもなく、抑揚のない一本調子の返答をする。
遅刻した理由が『バカの相手をしてました』では、些か格好が悪い。
「信じてないでしょ!僕、翼だってあるし、空だって飛べるんだよ!」
「へぇ、そりゃすごい。じゃあ飛んでみせてよ」
「……今はムリ」
「やっぱり嘘なんじゃねえか。じゃあな」
「嘘じゃない!ねぇ、待ってよ!」
少年は早足で歩く大悟の腕をぐいと掴んだ。
「何だよ!」
「君が当たったんだよ!」
「何にだよ!」
「僕にだよ!」
「はぁ!?」
「君の願いを叶えてあげる!」
開いた口が塞がらない。
「……冗談」
「冗談なんかじゃない!ホントに叶えてあげるよ……1つだけだけど」
自信満々のドヤ顔を唖然と見つめていたが、やがて大きく息を吐き出した。
「とりあえずガッコ行くわ」
「じゃあ、僕ここで待ってるね」
訝しい表情のまま学校へ向かう大悟の背中に、少年は大きく手を振った。
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