III

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涙を拭って目を上げると、視界の隅に青い一片が舞うのが映った。舞っていたのは自転車の私を倒れさせたのと同じ種のいつかの蝶だった。何かのはずみか車内に紛れ入ってしまったらしい。無防備な舞い方をしていた蝶はふいと腕を伸ばして包むとわたしの手の中に難なく収まった。(てのひら)に小さな蝶を閉じ込める。美しく(たっと)い存在。封じ込められた蝶は慌てもがいてわたしの手をこそばゆくする。愛しくてこわい。 わたしはふわりと空間を作っていた両の手を静かにピタリと隙なく合わせた。
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