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あんまり無防備な古都。薄い背中に、細い頸部。卵型の頭部に、その裏にあるふっくりと膨らんだ眼球を包み込む白い瞼と。
ねえ、わたしたちはこんなに命にあふれています。あふれています。
──わたし、反抗期なの。反発してんの。
古都は時折ひどく鋭い攻撃性を見せる。
ねえ、古都は何に反抗してるの。何に反発してるの。あなたのさなぎはいつ破れるの。耳の傷がまだわたしを包むように痛い。
不意に、ピアスを揺らして古都がこちらを振り返る。ブラウスの襟ぐりから覗く青い静脈。青い蝶の筋模様。あのときの逃れられなかった蝶。
蝶にどれほどの感情があるものか知らないけれど、あのとき電車を彷徨っていた蝶は私に閉じ込められて、あんなふうに暴れて、本当は怖かったのかも知れない。
「ここから一歩先に行こうとするだけで、落ちるね」
古都はくすくすと、葉擦れのように笑う。
「古都」
私は自分の欲求のままに古都のふたつの眼球をふっくりさせた掌で後ろからそっと覆った。
古都は抵抗しなかった。
ただ、なにも塗っていない、そのしっとりと弾力のある睫毛だけが翅のように瞬いて、かすかに私から逃れようとしていた。
了
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