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II
「学校、休むかと思った」
翌朝、昇降口で靴を履き替えていると古都が肩に軽く触れ声を掛けてきた。
「見た目、かなり目立つけど大丈夫なの」
彼女はわたしの脚に巻かれた包帯を凝視する。
「見た目だけ」
擦過傷が広範なのでその全てに包帯を巻かなくてはならず、スカートの裾から見える右脚はほとんど素肌が見えなかった。
「そう」
心配しているんだかいないんだか分からない単調さで返した彼女は一瞬目を伏せる。肌は白いのに、切り揃えた前髪も、そのすぐ下の眉も、それから睫毛もみんな黒々して濃くて密だ。そのせいで眉と睫毛に挟まれた、まるく膨らんだ瞼がやけに白く映った。
「霜田さん、気付いてなかったと思うけど」
死ぬとこだったよ、自身のほおのような淡白さで古都は付け加えた。
「え? 」
「霜田さんが倒れたとき、すぐ後ろにトラックが走ってたんだよ。本当にきわどいところでトラックが避けてった。あのとき──」
淡々と言いかけて、古都は口を噤んだ。
「死んでたんだ」
「かもしれなかったって話」
おとなしそうな外見に反して、意外とストレートな物言いをする。
「なんであんな転び方したの」
「え、と」
瞬間わたしの頭の中であの青色が舞う。
「蝶、が」
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