II

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沙奈と一緒に教室に入ると、案の定いつものグループから怪我のことで騒がれて、心配されて、笑われた。わたしもそれを適当に笑いの種にする。女子校のこういう気怠くて緊張感のない空気はそれなりに楽だ。その不文律に従いさえすれば簡単に周りに受け入れられる。普段私にべったりな沙奈だけはなぜだか拗ねたような不機嫌な顔を見せたけれどわたしは上の空で、周りの騒ぎも沙奈の不機嫌もどうでも良かった。 頭の中で古都の言葉がくるくる回る。 ──死ぬところだったよ。 ──あのとき。 あのとき、何だろう。 あのときわたしが死ぬかと思った? もし死んでいたとしたら、どうしようかと思った? 物騒な物言いをした古都。その飄々とした空気感がわたしの中でずっと焼きついて離れない。その日の間じゅう、今までまったく注目していなかった古都を、絶えず目で追っていた。 見ていて初めて分かったことだが、古都はどこのグループにも属していない。それはちょっとした驚きだった。それがどんなに思春期の少女にとって異質なことかわたしたちは身を以て知っている。かといって浮いているとかいじめられているといった様子ではなく、とっつきにくい孤高さを纏っているわけでもない。誰とでも適度に喋るし、上手くクラスの空気に紛れ込み、昼食時も誰かしらと言葉を交わす。古都の存在感を今まで認識出来なかった要因はこれだったかと得心する。ただフラットに何処にも属さない存在なのだ。 古都はどこまでも自然体で透明で、そしてまっさらに自由に見えた。     
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