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「その男から慰謝料と養育費をふんだくりましょう。任せておいて」
伊織の話を聞き終え、房子が爽やかな笑顔で言う。なぜか寒気を感じる笑顔だ。
「今の話だと、洋子さんはあなたのパートナーという訳でもなく、居候なのよね?」
市子の言葉に伊織は頷いた。
「ねえ、房子、同性パートナーなら、夫婦と同等のサポートをすることも不可能ではないわよね……」
「その場合でも今すぐには無理ね。仕組み自体を変えるのは市子の一存では進められない」
市子と房子が互いに呼び捨てになっていることに伊織は気付いた。伊織の話を聞いている間の2人を見て、その関係が仕事上だけのものではないと感じていた。それが間違っていないと確信する。そして、自分と洋子もこんな風になりたいと考えていた。
「洋子さんは家にいるのよね?どうして育児休業がほしいの?」
「洋子さんは、ずっと孤独に育児をしてきて、育児に不安を持っている感じがするんです。育児ノイローゼに近いような。だから、できるだけ側でサポートしたくて」
伊織の言葉を聞いて、市子は頷くと専務の顔になって話す。
「残念ながら、今の状況で葛見さんに育児休暇を許可することはできません」
「はい」
「だから、2週間ちょうだい。1階の会議室をモニタールーム兼ショールームにします」
伊織は、市子が何を言っているのか分からずに首をひねる。
「一般にも開放して、製品を使ってもらえるプレイルームにします。新商品発売時には、PRイベントを開いてもいいわね」
「それなら、市子の裁量でギリギリ進められそうね」
房子は市子の提案に賛同する。だが、伊織にはまだ意味が分かっていなかった。
「あなたが最初に洋子さんを連れ込んだのと同じ手よ」
房子はそう言ってウインクをした。
「育休は無理だけど、洋子さんと唯ちゃんをモニターとして会社に連れていらっしゃいってこと」
伊織はやっと市子の意図を理解した。
「管理と総務、顧客サービス部、企画デザイン部、あと製造部からそれぞれ担当者を選出させましょう。企画デザイン部は葛見さんが担当しなさい。忙しくなるけど、いいわね」
「はい、もちろんです」
市子の言葉に、伊織は大きな声で返事をした。
伊織はずっと、子どもが喜ぶおもちゃさえ作れれば、会社なんてどこでもいいと思っていた。
だが今は、フレ・フレで働けて良かったと、いい上司がいて良かったと心から感じていた。
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