育休をください。

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大学を中退ということは、洋子の年齢は二十歳前後だろう。伊織が想像していた年齢よりもずっと若い。 両親の協力も仰げず、夫も育児に無関心という状況で、若い彼女が子育てにどれだけ苦心していたかを思うと、伊織の胸が痛んだ。 「これからどうしますか?」 「抱っこすれば、唯が泣きやむことも分かりましたし、きっと大丈夫だと思います」 洋子は笑顔を見せたが、伊織にはそれが作り笑いに見えた。だが、これ以上は踏み込むべきではない。伊織は「そうですか」と頷いた。 「もしも、夜泣きをするようなら、いつでもここに来てくださいね。夜でなくても、いつでも来てください」 「ありがとうございます。でも、本当にいいんですか?」 「昨日言いましたよね、新しいおもちゃのモニターです。来ていただけるとむしろ助かります」 伊織はいつもの無表情のまま伝える。だが、洋子はホッとしたような笑みを浮かべた。 「葛見さんって、不器用だって言われませんか?」 「ん?おもちゃの開発もしてるし、器用だと思いますけど」 伊織が首をひねると、洋子はさらに楽しそうに笑った。 その日から、洋子は度々伊織の部屋を訪れるようになった。夜遅くに来ることもあれば、休日は一日中伊織の家にいることもある。伊織はそれについて詳しく聞くことはしなかった。 それでも、心配だったため、洋子や赤ん坊の唯が怪我をしていないか、さりげなく確認した。 そして、暴力を振るわれた跡がないことに、伊織は少しだけホッとする。だが、殴る蹴るだけが暴力ではない。洋子の夫は、言葉や態度でずっと二人を傷つけている。 どうすれば、彼女たちを救えるのか伊織は考え続けていたが、結局答えは見つけられなかった。
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