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そんな日々が一月ほど続いたある日、洋子が大きな荷物を抱えて現れた。
「離婚されちゃいました」
洋子は憔悴しきった笑顔を浮かべる。
「夫が浮気していたのは知っていたんです。でも、私ひとりじゃ唯は育てられないから。でも、ダメでした」
伊織は何を言っていいか分からず、泣きもせず不自然に笑っている洋子をそっと抱きしめた。
その日から洋子と唯は伊織の部屋で暮らすようになった。
洋子は精神状態が不安定になっており、目を離すことができなかったため、伊織は溜まっていた有休を使って2人を見守った。
3日が過ぎ、洋子が落ち着きを取り戻したのを確認して、伊織は洋子に聞いた。
「これから、どうしますか?」
「大丈夫です、すぐに出て行きますから」
洋子は笑顔で言う。
「出て行ってどうするんですか?」
「唯と2人でがんばります。長い間、ご厚意に甘えてすみませんでした」
「3人では、だめですか?」
伊織は、唐突に、だが、ずっと考えていたことを口にした。
「私と、結婚してくれませんか?」
「は?」
「もちろん、女同士で結婚はできません。でも、そういう気持ちで、これからもこの家にいてくれませんか」
洋子の瞳に怒りが灯る。
「馬鹿にしているんですか。それとも同情ですか」
「フム、やっぱりだめですか」
伊織は無表情のまま続ける。
洋子はさらに激昂して叫んだ。
「私たちのことを捨て犬だとでも思っているんですか。馬鹿な女だって心の中では笑っているんでしょう」
「心の中で笑っているというのはその通りですね」
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