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「関ヶ原か、(小柄な侍は、思い出すように遠い目をして)美濃と北近江の国境、たしか、織田信長の家臣、あの、稲葉山城乗っ取りで名を上げた羽柴秀吉の軍師、竹中半兵衛の領地で、古くは、不破の関と呼ばれた古戦場の地であるな」
「おじさん歴史マニアだね」
「マニアとはなんじゃ? 」
「おじさん英語ダメなの? ま、くわしいってことかな」
小柄な侍はかぶりをふって、
「ワシなどは、武田家中では戦働き専門のイノシン武者の部類じゃ。勉学ならば、海津の高坂弾正には遠くおよばんて」
「高坂弾正って、武田信玄四天王の高坂昌信のことでしょう? 」
小柄な侍は目をほころばせ、
「ほう、武田四天王の名は遠く大和の国まで聞き及んでおるか」
カケルは得意の歴史の話で思わず身を乗り出して、
「歴史マニアの間じゃ武田四天王は常識。鬼美濃こと馬場美濃守信春。弓取りこと内藤修理亮昌豊。逃げ弾正こと高坂弾正忠昌信。大取りは、武田の代名詞、武田の赤備えの山県昌景!」
小柄な侍は「ほう」と、顔のほころぶのをこらえるように口をとがらせ頬をこけさせナマズヒゲをなでた。
「小僧よ。その、最後の山県昌景とやらの評判とやらはどうじゃ? 」
「武田四天王の中じゃ1番カッコいいですね! 」
そう聞くと、小柄な侍は、パッと喝采して、
「小僧よ、よくぞ申した気に入った。その、山県昌景がこのワシじゃ。どうじゃ、北庵殿が御舘様の側へおる間だけでもワシに仕えぬか? 」
つづく
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