4左近、時をかける!(現代、左近のターン)

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「カケル、あなたどんなフラれ方したらそうなるの? もしかして、心の病かしら? それよりも、お母さんとやらとは何? もしかして、ワタシのことまで忘れちゃったんじゃないの! カケル、ワタシの名前分かる? 」 左近は、いさぎよく、姿勢をただして、 「すまぬお母さんとやら、ワシは妻の月代は分かっても、お母さんとやら、それに、ここにおる天女、清香殿は初見にござる! 」 お母さんは左近の物言いにホロホロ涙を流して泣き崩れた。 清香が、血相変えて左近へ詰め寄る。 「お兄ちゃん! いくらなんでも生んでくれたお母さんの名前を忘れるなんて許せない。お母さんは、清美! 冗談だったって言っても許さないんだから!! 」 左近は、悪びれもせず、 「ワシは、清香殿も清美殿も知り申さん。だが、月代は存じておる。月代は、薬師の北庵殿の娘御でワシの惚れて連れ添いにした妻だ」 清美は、必死で涙を抑えて、 「分かったはカケル。あなたはそこまで月代さんのことが好きなのね。病気になってもそれだけでも覚えている望みがあるなら、ワタシはあなたの母親よ。どんなになってもお腹を痛めて生んだかわいい息子、ワタシはあなたを支える」 と、清美がキッパリと言ってのけると、そそくさと部屋へ戻って、化粧を済ませ戻って来た。 「カケル、さあ、精神科の北庵先生へ行きましょう。あなたの思いをワタシも一緒に北庵先生に伝えるわ! 」 「おお、ここには義父殿もおられるのか、それは久しいのう。清美殿、是非、北庵の義父上に会わせてくだされ、そうすれば、清美殿の誤解も解けようというもの」 清美は、静かに息子がどんな病気でも受け入れるといった覚悟でうなずいた。 「さあ、カケル、病院へ行きましょう」 左近は、先程から清香も清美も自分のことを左近ではなくカケル、カケルと話かけるのが分からなかった。 「ところで清美どの先程から呼びおるカケルとは何者でござるか? 」 玄関の清美は後ろから左近の肩に手を添え、シューズボックスに貼り付いた鏡に左近をホラっと映した。 鏡に自分を映した左近は目を丸くして叫んだ。 「何者じゃ、これは?! 」 清美は、落ち着いて諭すように、 「なにを言ってるのカケル、それがワタシの息子時生カケルの姿よ」 つづく
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