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「カケル、覚えてる? 」
左近はコクりとうなずくだけで返事はしなかった。
清美はつづけた。
「カケルが幼稚園の頃ね、あなたとよくここへ来て遊んだわね」
清美は立ち上がって、左近の背後に立ち、そっと背中を押した。
「オロッ!」 ブランコはつ体験の左近は、この自分の体を二本の鎖(くさり)にまかせた遠心力の乗り物にビックリした。
それを見た清美は懐かしくなって、
「そうそうその顔!カケルはブランコに乗せるといつもおっかなビックリおもしろい顔をしていたわ。やっぱりあなたは時生カケルワタシがお腹を痛めて生んだかわいい子。でも……」
言いよどんだ清美を左近は真っ直ぐな目を向けた。
「清美殿、ワシの姿形が息子のカケル殿であるのはまぎれもない事実。かと言って、この姿から元の姿へ戻る方法もわからぬし今は、この嶋左近、今世(こんじよう)を時生カケルとして精一杯駆け抜けもうそ」
清美は、嬉しそうなのか悲しいのかわからぬ表情で、
「そうだカケル! あなた侘助(わびすけ)好きだったわね。たしか、この公園の……」
そう言うと清美は、ぐるっと公園を見渡して、「あっ! あそこだ!」 と、白い花を指差した。
清美の指し示す方向を目をこらして遠眼する左近は、
「あれは、侘助。白椿ですな」
左近は、そう言うとなにか頭にひっかかる物があって、清美におもむろに尋ねた。
「清美殿、ワシはこの世が様変わりしてはっきりと確信がもてなんだが、この地はなんと申したかな?」
清美は素直にこたえた。
「奈良県生駒郡平群椿井よ」
「椿井?! 」
そう言うと左近はこの小高い丘の上の公園から立ち上がって四方に目をこらし、一方を指差した。
「では、もしかすると、この椿井に睨みをきかせる西の山は信貴山にござるか?」
清美は、知ってるカケルに出会えたように、うれしそうにほほえんで、
「そうねカケル、あなた歴史に詳しかったわね。たしか、あなたに買ってあげたゲームかなにかで勉強して教えてくれたわね。なんだったかしら……そう、織田信長を裏切った梟雄の名前はたしか……なんだったかしら?」
左近は、信貴山を睨んで、
「梟雄、松永弾正久秀にござる!」
つづく
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