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英司は一か月くらい後に連絡してきて、日曜の昼間にうちに来た。夜の早い時間に、駅前の店のカウンターでご飯を食べている時に、
「また会って」
と言われたので、
「あ、また連絡ください」
と答えると、少し経ってから、
「あれでしょう、もう会わないつもりでしょう」
と言う。
僕は隣に座っている英司を見て、
「そんなことない」
と言った。
「嘘だろ」
「んーと…」
「いやなんでしょ、仲良くなるのが」
英司は穏やかな表情だが、笑わずに人の目を見て話すので、少し怖かった。
「俺は会いたい。でも、また間が空くな」
「仕事が忙しい?」
と聞くと、彼は頷いて、ため息をついた。
ビールに口をつけて、ちょっと考えてから、
「英司さんは、昔好きだった人に似てる」
と僕は言ってみることにした。
英司はゆっくりと首をかしげ、
「へえ。どのへんが?」
と聞いた。
「顔は似てないかな。何となく…どことなく似ている」
答えながら、ふと思いついて、
「手が似てる」
と言った。
「手?!女の子みたいなこと言うなあ」
英司は両手を広げ、何度かひっくり返して眺めた。形じゃなくて触り方、とは言わなかった。
「何年前の話なの?」
「四年か、五年か」
「そんなに前の話?」
英司は、驚いたように大声を出した。
「よくそんなに引きずるなあ」
僕は苦笑した。
「どうして別れたの?」
「付き合ってはいなかった」
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