4

1/5
前へ
/16ページ
次へ

4

英司は、僕と知り合った店から電車で二時間くらいかかる場所で、クリニックを開業していた。僕は、それ以上のことは聞かなかった。 キシの時と同じで、興味が持てないのと、聞いても仕方がないからだ。 ただ、そういう人なら、付き合う付き合わないみたいな話にならなくて楽だ、と思った。 彼に会うのは月に一度か、もっと間が空いたが、会い始めて一年近く経った頃、連休にかけて休みを取った、と英司に誘われて、彼と僕のいる場所の中間あたりで、ホテルに泊まったことがあった。 午後に待ち合わせて、そこから英司の車に乗った。ドライブしている時に、結婚のことを初めて質問した。 「結婚、してる」 と英司が答えた。 「別居してもう、すごい長いけどな」 「へえ。子供は?」 「子供はいない」 「ふうん」 しばらく沈黙が続いた後、信号で止まった時に、 「何で急に、その質問してきたの」 と英司が言った。僕は彼の横顔を見た。 「いや、前から聞こうと思ってて」 「俺が結婚してたら、気になる?」 「いや、そういうんじゃない」 正直、僕にはどうでもよかった。英司が、僕の無関心な態度に飽き足らない、ということもわかっていた。 「奥さんの親が、うちの親父の患者さんだった」     
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加