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「お父さんも、お医者さんか」 「うん、親の病院継いだ」 信号が変わり、車が走り出してから、英司は僕の方をちらっと見た。 「俺は、きれいな顔の男の子が好きでさ、昔から」 「へー」 「好きになるのは男だったけど、女と付き合ってたな」 「結婚したんだしね」 「でも、全然だめだった。悪いことしたよ」 「…ふうん」 「…幸彦くんは、最初見てあまりにもタイプで、どうしようかと思って」 「どうしようかって?声掛けてきたじゃん」 「振られたら困るから緊張した、普通にどきどきした」 この程度の話も初めてしたのだが、僕はその頃、男を連れ込むのはやめて、英司とだけ会っていた。 彼は離れた町に住んで、恐らく一生そこを離れない。お互い仕事がある限り、頻繁には会えない。それがいろいろなことの言い訳になり、僕には心地良かった。 チェックインした部屋は十八階で、開かない窓の外に、知らない街の夕暮れが広がっていた。茜色に染まった空を背景に、遠くの山並みが影絵のようだった。 英司が背後に立ったので、少し振り向いて、 「きれいだね」 と言った。彼は後ろから、僕をそっと腕の中に抱え込んだ。 そのまま窓の外を見ていると、英司のゆっくりとした呼吸が背中に感じられた。     
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