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思い出せなくなってきた、と言おうとした途端、キシのいつも少し乾いた唇の感触を鮮明に思い出す。僕の口の中を探る柔らかな舌を。いつも欲しかったことを。
あの頃のキシは、もうどこにもいない。
あの頃の自分もいなくて、知らない街のベッドで、キシではない男と寝ようとしている僕がいるだけだった。
それでも僕は目を閉じて、夜になったばかりの窓の外から、夕暮れの時間を呼び戻そうとする。瞼の裏にあの夕闇を招き入れたら、心にしまい込んでキシに見せてあげたいと空しく願った。
英司は僕をベッドに引き上げて押し倒し、キスはそのまま長く続いていた。
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