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英司には、
「よくそんなに引きずるなあ」
と言われた。
友達があまりいないので、キシのことを話したのは英司が初めてだった。
二十九歳の時、店で声をかけられて部屋に引っ張り込んだのが、英司だった。
何度か失敗してルールを作り、男は自分の部屋に連れ込んで、泊めないことにしていた。
「終わったら帰ってもらうけど」
と最初に英司に言った時は、
「人がいると、眠れないから」
と、言い訳も同時に伝えた。
「…泊まらないで、帰ればいいということ?」
「そ」
「わかった」
英司は、飲み代とタクシー代を払って部屋に来た。
それで、触り方がキシと似ていた。
もちろん、いちいち比べているわけでもなく、僕の頬から体にかけて、指と手の甲で触れる感じで、記憶がよみがえった。
酔った男を拾うことが多いせいもあって、そういう触られ方はあまりない。
キシは、僕を肩に凭れさせる時、髪を撫でてくれる時、抱きしめる時、こわれものか何かのように、そっと触ることがあった。
その時の感じだった。
僕が固まったのに気づいて、どうかした?というように英司が見たので、
「何でもない」
と言った。
終わってから、
「また会ってくれますか?」
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