act.15

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「彼も、連れて行くのか」  稲垣が、羽柴の腕に抱かれている箱を見て言った。「ええ」と羽柴は頷く。 「長い間、離れっぱなしだったので。これでようやく一緒にいることができます」  稲垣の脳裏にも、在りし日の青年の儚い笑顔が浮かんだらしい。稲垣は指先で少しだけ箱に触れた。 「よく・・・、一ヶ月の間に立ち直ったな」  稲垣がそう言うと、羽柴が少し力なく笑った。 「これからです。これから、どれぐらいの時間がかかるかは分かりませんが、これから少しずつ、噛みしめていきたい」 「・・・・そうか」 「羽柴さん、時間です」 「え? もう?」  そう言ったのは、稲垣の方だった。  二人して、電光掲示板を見上げる。  搭乗口に向かわなければいけない時間だった。 「じゃ、お元気で。皆も」  羽柴が荷物を肩にかけて、手を振る。  真っ直ぐに伸びた背筋が、人込みの向こうに消えていく。 「羽柴!!」  稲垣が叫んだ。羽柴が振り返る。  稲垣は洟を一回啜ると、 「そのコート、よく似合ってるよ!」と叫んだ。  羽柴は満面の笑顔を浮かべて、一礼をして去って行った・・・・。  『間もなく離陸いたしますので、シートベルトをお締めください』   客室乗務員が、各座席を見回る。     
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