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「さ、早く上がって。真一が待ち切れなさそうにしてるから」
羽柴は荷物を店先に下ろすと、革靴を脱ぎ捨て、家の奥に進んだ。
「こっちよ」
母が、居間のガラス戸を開ける。
居間に入って羽柴は、一瞬意味が分からなかった。
立ち上る線香の香り。
揺らぐ蝋燭の炎。
その向こうに、錦の布に包まれた箱が置かれてある。
箱の前には、羽柴も持っている真一の写真・・・。
「三日前に亡くなった」
羽柴の後ろから居間に入ってきた隼人が、静かに言った。
「本当に眠るように、安らかに逝ったのよ」
真一の母が、柔らかな微笑を浮かべ言う。
羽柴は口を開けたまま、その場にへたり込んだ。ぐらついた身体を、隼人が何とか支える。
「昨日・・・、昨日・・・・」
ようやく羽柴が呟く。溜息のような声。
その声を聞いて、隼人が涙ぐむ。
「昨日のメールは、俺が打った」
羽柴の見開かれた真っ黒い瞳が、隼人を見た。
「でも文面は真一さんが考えたものだよ。亡くなる前日まで、真一さんはあんたへのメッセージを考え続けていた。最期の一週間はキーボードも打てなかったから、俺が手助けしてたんだ」
「・・・そんな・・・」
羽柴はがっくりと項垂れる。「そんな」と何度も呟いた。
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