act.02

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 いつもスケジュール管理はきちんとしている真一が珍しいことを言うと母親も思ったのだろう。母は、寝巻きのままドアを開けて入ってくると、身体を振るわせながら真一の手元を覗き込んだ。  ライトに照らされていたのは、仮縫いがすんだばかりの子供用のワイシャツだった。 「母さん、寒いだろ。もう寝床に戻りなよ」 「あなたも程々にしなさいよ。疲れはあなたの身体に禁物なんだから」  母は不機嫌な顔つきのまま、ドアの向こうに消えていった。真一は、しばらくの間母の消えたドアを見つめ、再びライトを手元に引き寄せた。その時、ワゴンの上のトレイで携帯電話がブルブルと震えた。暗い店内で携帯の画面が光る。液晶の画面には、メールが届いたことを知らせるアイコンが瞬いていた。  真一は携帯電話を手に取り、メールマークのついたボタンを押した。画面に、ごく短い文章が浮かび上がる。 「ねぇ、明日の夜、ヒマ? ヨロシク。ハヤト」  真一は携帯電話を作業テーブルの上に置いて、きつく目頭を押さえたのだった。
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