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青年が手紙を差し出すと、初めて男の顔に表情らしいものが浮かんだ。
酷く悲しげで、優しげで。
だが次の瞬間には、振り切るように視線をそらした。
どんな事情があるかは知らないが、手紙を書いた主を、この男は恨んでいるのかもしれないと、漠然と感じた。
ひどい思いをして恋人とでも別れたに違いない。丁度、自分のように。
「死ぬ前に、せめて封くらい開けてやったら? そんなのなんかフェアじゃないじゃん」
青年は、男に手紙を押し付ける。
男は、手紙を受け取ろうとしない。
「じゃ、俺がここで破ってやろうか?」
オーバーなジェスチャーで青年が封筒に手をかけると、男の素早い手が手紙を奪い取った。
「なんだ。そんな気力があるんなら、とっとと読んでやりゃいいじゃん」
青年は溜息をつくと、肩を竦めて見せた。
空の厚い雲が晴れて、夕日が二人を照らし出す。
「あ、きれいな夕日」
何気なく青年が呟いた。
その言葉に何を感じたのか、男が再度瞬きをして、夕日に目をやった。
男の表情がふいに和らぐ。
男の目から、一滴の涙が零れ落ちた。
── 今、やっと目が覚めたような顔をしてる。
青年はそう思って、はっとした。
いつかそんなこと、口にしたっけ。
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