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「彼も、連れて行くのか」
稲垣が、羽柴の腕に抱かれている箱を見て言った。「ええ」と羽柴は頷く。
「長い間、離れっぱなしだったので。これでようやく一緒にいることができます」
稲垣の脳裏にも、在りし日の青年の儚い笑顔が浮かんだらしい。稲垣は指先で少しだけ箱に触れた。
「よく・・・、一ヶ月の間に立ち直ったな」
稲垣がそう言うと、羽柴が少し力なく笑った。
「これからです。これから、どれぐらいの時間がかかるかは分かりませんが、これから少しずつ、噛みしめていきたい」
「・・・・そうか」
「羽柴さん、時間です」
「え? もう?」
そう言ったのは、稲垣の方だった。
二人して、電光掲示板を見上げる。
搭乗口に向かわなければいけない時間だった。
「じゃ、お元気で。皆も」
羽柴が荷物を肩にかけて、手を振る。
真っ直ぐに伸びた背筋が、人込みの向こうに消えていく。
「羽柴!!」
稲垣が叫んだ。羽柴が振り返る。
稲垣は洟を一回啜ると、 「そのコート、よく似合ってるよ!」と叫んだ。
羽柴は満面の笑顔を浮かべて、一礼をして去って行った・・・・。
『間もなく離陸いたしますので、シートベルトをお締めください』
客室乗務員が、各座席を見回る。
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