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「お客様、お荷物を上にお入れいたしましょうか?」
日本人の客室乗務員が羽柴にそう言って、膝の上の箱を取ろうとした。その手を羽柴が柔らかく制す。
「これは、いいんです」
穏やかにそう言われ、彼女はやっとそれがお骨を収めてある箱だということに気がついたのだった。
「申し訳ありません」
「いや、いいんだ。こうして持っていれば、構わないよね」
「ええ。結構です。本当に申し訳ありませんでした」
「気にしないで」
大柄な体つきに似合わない朗らかな笑顔だった。
やがて飛行機が離陸する。
箱の中で真一がカタカタとなった。
まるで飛行機がダメなんだと訴えているようだった。
── そういえば、高いところが苦手だって言ってたな。
東京タワーで足を竦ませながら、決して窓に近づこうとしない真一を見てひとしきり笑ったことを思い出していた。
「じゃぁ何で大人しくここまで上がって来たんだ」と羽柴が訊くと、真一は顔を赤くして、「あなたと冗談言い合っていたら、自分が高所恐怖症だってことをすっかり忘れてました」と答えた。
その時の、子供のような真一の表情。
いつでもきちんとしていた真一が、唯一羽柴に見せた、少年らしい顔つきだった。
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