act.01

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 作業テーブルには型紙が並べられ、仮縫いの進んだ生地がその上に覆い被さっている。 作業テーブルの奥には可動式のミシン台があって、更に奥にはクローゼットがある。その隣にあるドアをはさみ、向こう側にはオーク材の背の高い本棚が壁とドアの間にぴったりと収まっていた。狭いが機能的に配置された店内だ。 「キヨシが鬼!」 「えー!」  益々白熱する闘争に目を細め、真一は再び仮縫い作業に戻った。  作業テーブルとソファーの間の壁際に移動させているストーブにはヤカンが置いてある。心地よい湯気が口からシュンシュンと上がっていたが、どこに移動させようと子供達には関係がない。 「来れるもんなら、来てみな!」  キヨシを挑発するようにおどけながら、オサムが真一の背後をすり抜けていく。 「おいおい、危ないって・・・」 「オサム、待てぇ!」  キヨシが飛び上がった先には・・・。 「危ない!」  キヨシの着地点にヤカンの口があることに気が付いた真一は、無理な体制でキヨシを抱きとめると、テーラーの七つ道具が入ったワゴンを倒しながら床に転がった。  ワゴンが倒れる派手な音に驚いたのだろう、一拍おいて他の三人が倒れこんだ二人を覗き込んだ。 「・・・怪我はないかい?」  真一の身体の上でキヨシが顔を上げると、予想していた怒鳴り声の変わりに穏やかな真一の声が聞こえた。  キヨシは、青ざめた顔で首を横に振る。真一はそれを確認してから、ゆっくり身体を起こした。キヨシを立ち上がらせ周囲を見回し、真一は笑い声交じりに溜息をついた。     
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