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真一は倒れたワゴンを起こし、飛び出していない一番下の引き出しから絆創膏を二枚取り出すと、傷口に重ねて貼った。そうして真一は、店の一番奥にあるクローゼットを開けた。そこは仕立てあがった商品がかけてある。グローゼットの中の引き出しには、ワイシャツがしまってあった。その中の小さな一枚を取り出す。
「丁度よかった。キヨシの背格好にぴったりのシャツがあったよ。よかったら、このシャツとキヨシのを交換してくれないかな」
「えー! いいなぁ!」
ヨウスケを皮切りに、オサムやコウジまでもが矢継ぎ早に声を上げた。皆、真一が仕立てる洋服が高価なことをよく知っている。キヨシとて、羨ましがられて悪い気はしない。
「いいよ」
キヨシは現金な笑顔を浮かべて、シャツを着替えた。真一は血のついたシャツを受け取ると、店の奥のドアを開けた。そのドアの向こうは、居住空間になっている。
古い建物だ。ドアの向こうは土間になっていて、そこにある黒いごみ袋にそれを入れた。
ふと、店先に吊るしてある小さな鐘が鳴った。
振り返ると、黒いトレンチコートを羽織った背が高くて姿のいい男が、不思議そうに店内を眺めていた。仕立屋には不似合いの悪がき共がシャツをめぐって騒いでいるところに出くわしたからだ。
「あ、いらっしゃいませ。すみません、散らかしてまして」
真一は顔を赤らめながら、床のものをワゴンに片付け始めた。子供達も慌ててそれを手伝う。
「お兄ちゃん、俺らもう帰るね」
「その方がいいかな」
「じゃ、また来るね」
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