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「連絡先は携帯電話の方でよろしいですか?」
真一が顔を上げると、羽柴は青いファイルを開いて、興味深げにページをめくっていた。
そのファイルは生地のサンプル表だった。小さく切った生地が分厚い台紙に貼り付けられていて、生地のメーカー名や特徴が細かく書かれてある。素朴だが丁寧な仕事である。
「携帯の方がむしろ都合がいい。忙しい身なんで、連絡がつかないと申し訳ないから」
羽柴は真一の手作りの生地カタログが気に入ったようで、小さな生地の手触りを楽しんでいる。
見かけによらず、少年っぽいところがある人だな。
真一は思わず笑い声をたててしまった。
羽柴が、顔を上げて不思議そうに見る。
「失礼。生地カタログをそんな風に熱心にご覧になる方は珍しいので。大抵の方は、まずデザインから検討されるものですから」
真一はそう言って、タキシードのデザインカタログを開いた。
「ああ、そうか。そうだな」
羽柴も照れくさくなったらしい、きれいに撫で付けられた髪をがりがりと掻いて、あははと笑った。
これが、須賀真一と羽柴耕造の最初の出会いだった。
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