act.01

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 せめて妻の一周忌ぐらいは穏やかに迎えたいと思っていたのに。  須賀真一は、作業テーブルの向こうで追いかけごっこをしている子供達を眺めながら苦笑いした。 「毎日来るのはいいけど、走り回るのは危ないよ」 真一がそう言ったところで、この愛すべき悪がき四人が言う事をきく訳がないことは、百も承知だった。 浅草の繁華街から少し離れた町の片隅に、須賀テーラー店はある。  店の表はガラス張りで、古めかしいショーウインドウには、上品な佇まいのスーツが二着、展示してある。木枠にガラス張りのドアは重く、開くと上にかけてある年代ものの鐘がカランと鳴った。  入口ドアを入るとすぐ左手にクリーム色の布張りのソファーセットと華奢なテーブルがある。それらを越した左手の壁には天然木のチェストがあって、その上にコーヒーメーカーが置いてあった。  入口右手には、お客様用の洋服かけに姿身の鏡。その奥には、ネイビーブルーの布がかけられた更衣室。向かいには、テーラーの作業テーブルがあった。作業テーブルの上には、アイロン用のコードとアームが突き出している。     
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