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「…ルカ。何、してるの?」
口元に手を当て、最小限のボリュームで尋ねる。
幸い、今の教室のざわめきの中なら多少の話し声は聞きとがめられることはないだろう。そしてこのマスコット的ミニイルカの姿や声は、自分にしか認識できない、とは聞いている。
それでも本当にそうなのかはいまだにいまいちわからず、そして「今それどころじゃない」状態の冴は、ペンケースの口からひょこりと顔を出した水色イルカをもう一度中に押し込み、ファスナーを締め切ってやりたい衝動をなんとかこらえた。
「家も外も、暑いんだよ。ここが一番マシかと思ったけど、この中は暑い…。」
ちっちゃなヒレでペンケースの口を器用に押し広げ、ミニイルカ姿のルカはふよんと浮き上がって冴の肩のあたりにやってきた。相変わらず緊張感のないその姿を、冴は無言で睨み返す。
「何?どうせ見えないし聞こえないんだから気にするなよ。ちょっと涼んだら出て行くから。」
だったら私にも「見えなく聞こえなく」してほしいものだと思いながら、冴は教室の後ろに設置されたクーラーの送風口に吸い寄せられていくルカの姿をちらりと目で追う。
確かに周囲の生徒や先生が気づく様子はまったくないが、本当に大丈夫なのだろうか。クラスメートの中に、霊感の強い人とか、超能力者のタマゴとか、そんなのいなかったっけと冴はぼんやりと考える。ルカに言ったら「霊扱いするな。」とツッコまれて終わるだろうけど。
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