1. 贈り物は常識の範囲内でお願いします。

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朝。ぼんやりと浮かぶ笑顔の輪郭をたどろうとして伸ばした手が、冷たく硬い感触に止まった。 「…。」 叩き慣れた感覚。冴は目覚まし時計のアラームを止めるボタンの位置に確信をもって置かれた自分の手を見て硬直した。 ついさっきまで毛布のように温かく身体を覆ってくれていた柔らかな夢の残像は、一瞬にして霧散する。本来鳴るはずだったアラーム音を未然に防いでいたらしい自分の無駄な反射神経を嘆く間もなく、跳び起きた。 叫び声ともうめき声ともつかない声を漏らしながら誰もいない家の中を走り回り、最低限の身支度を整える間にも時計の針は無慈悲にタイムリミットへのカウントダウンを刻み続け、ちょうど制服にそでを通したタイミングで、いつも乗っているバスの発車時刻が過ぎてしまった。  ここまで寝過ごしてしまうことはめったにないのに、どうしてよりによって「今日」なのだろうと、ため息をつきながらスマホに保存しているバスの時刻表を表示してみる。 次のバスは30分後。バスの本数を今さら恨んだってしかたがない。自分が暮らすこの街が、自然豊かで昔ながらの風景が穏やかに息づく…「田舎」なのは今に始まったことではないのだ。 久しぶりの遅刻が確定して急ぐ必要すらなくなった冴が玄関でのそりと靴を履こうとしたとき、カバンのポケットに押し込んでいたスマホが振動し、画面にクラスメイトの名前が表示された。
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