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「あんたの家、行ったことないから知らないけど……話聞いてる限りじゃ、ゴミでぎゅうぎゅうになってそうだよね。泣く泣く捨ててんの、ティッシュくらいなんでしょ? 大家さんから『出てけー!』とか言われない? あとは隣近所から苦情来たりとかさ」
「できるだけ外食して、捨てる物が出ないようにしてるし、特に臭いには気を遣ってるつもりだから今のところは平気。でもそろそろもっと広い家に住みたいなとは思ってる。そんなお金ないけど」
「ゴミのコレクションスペース増やすために?」
「だから別に集めてるわけじゃないって……捨てられないから溜まっていくってだけで」
「まあいいけど。でも、いざ引っ越しするとなったら、さすがに全部置いてくでしょ?」
到着だ。サイドブレーキをかけ、首を横に振る。
「持ってく。だって全部、ゴミじゃないもん」
逃げるように運転席から降りると、集さんが先を競うようにしてネットに飛び掛かった。さながら、盛りのついたネコだ。“獲物”を横取りするつもりはないので、好きにさせてやる。
ふーっ、ふーっ、と荒い息混じりにゴミを捨て続ける集さんを見ていると安心する私も大概だ。彼女は「生きている」人間だな、とつくづく感心してしまう。
放り込まれたゴミ袋が、パン、パン、と圧縮されていく音をぼんやり聞いていると、集さんが「あたしはさ」と声をかけてきた。ここに置かれていたゴミはあらかた回収し終えたようだ。
「できることなら、何も物を持っていたくない。持ってると嫌でも執着するから。だからどんどん手放して、身軽でいたいの」
キャップを深く被り直しながら、彼女はきっぱりと言い切った。
所有することは、同時に、時間と心を所有されることでもある―――集さんが言いたいのはそういうことだろう。何かに所有される立場に身を置いて、いつかそれを失ってしまうかもしれない、とか、いつかそれに捨てられてしまうかもしれない、という恐怖を味わいたくないのだと。
きっと私たちのような人間が強く、たくましく生きていくには、こうあるべきなのだ。大分前から、頭では理解しているつもり。
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