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だんだんと、声は近付いてきた。少ししわがれたお爺さんの声。ビブラートの聴いた、どこか懐かしい歌。私が生まれた時からずーっと聴いてきた、石焼き芋の歌。小さい頃優子と一緒に車をこっそり追いかけて、迷子になってしまった記憶。
風が強く切る音が、耳に馴染んできた頃。私達はようやく石焼き芋屋さんの前に立っていた。
真っ赤な暖簾の向こうには、ちょうど焼きたての焼き芋に、湯気をあげる大きな石焼き芋鍋。そして、腰に手をやるお爺さん。
「いらっしゃい! 焼きたてがいいだろう、ほら、ちょっとだけ待たぁ出来るよ」
「「やったぁ!」」
私達はぱちんと手を合わせて、鍋の中を覗き込んだ。良い焼け色をしたサツマイモがちょうど五本、ごろりと鍋の中に転がっている。鍋の近くにいるだけで、十月下旬の寒さが一気に吹き飛んでいってしまう。なによりも、湯気と一緒に吹き付ける甘い香りが大好きだ。
「石焼き芋、久し振りだよね~」
優子は笑うと、嬉しそうに私の肩をつついてきた。確かにそうだ。移動式の石焼き芋屋さんなんて、何年ぶりだろう。幼稚園の時に、お婆ちゃんに買ってもらったっけ。焼きたてで、アッツアツで、手に持っていられなくって……。
「ほぅ、久しぶりの焼き芋かい? お嬢さん達」
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