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お爺さんが話に乗ってきた。私は頷いて、お婆ちゃんに買ってもらった時のことを話した。すると、愉快そうに、お爺さんは大笑い。「そうだよなぁ、包み紙があっても焼きたては飛び切りあちぃからなぁ。でもそれが一番食べ頃なんだよなぁ」
そうだよね。私も、あの時のほくほくの焼き芋は忘れられないな。黄金色で、ちょっぴりオレンジ色。皮はパリパリで剥きやすく、齧ってみればお芋が蕩けてーーー。
「どうしたの? ヘンな顔して。また亜美のおかしな癖が出てるわよ?」
優子がこちらの顔を覗き込んできて、はっ、と我に返る。しまった。私の悪い癖。昔のことを思い出すといっつもこうなってしまう。口からよだれが出て、目線がどっかいってしまって。こうして優子に注意されないと、戻れないんだ。もう高校生なんだし、早く直さないと…。
でもやっぱり、お芋は特別だ。
また同じやりとりを繰り返していると、今度はお爺さんが言った。
「ほら、出来たぞっ! お待ちどうさま、『ほっこり焼き芋』! 中サイズ、一本四百円!」
お爺さんが威勢良く告げて、お会計を済ませると、車はゆっくりと動き出した。私達はお芋片手に手を振って見送った。お爺さんは一度だけ手を振ると、すぐに消えてしまった。紅葉の並木道を、ゆっくりと下る車は、いつまでも歌を歌っていた。
「…さて、じゃあ!」
「「いただきます!」」
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