ただ、ほっこりしたい

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 せーので、私達は一気に焼き芋にがぶりつく。まるでこのお芋の中から暖かい風が吹いてくるかのように、私の髪は一瞬浮いた。相変わらずふわふわしていて、覗いた黄金色の身は、きらきらと輝いていた。それは、今さっき沈んだ夕日みたいに眩しかった。舌の上でとろとろ溶けて、飲み込む時には甘い蜜を喉に流しているようーーーー。ああ、懐かしい。これが、これがあの石焼き芋だ。 「おいし~っ!!」  優子が、ほっぺたが落っこちそう、と言いながら片手で頬を抑えていた。彼女の口元にはオレンジ色のお芋のかけらが付いている。でも、私は言わないでおいた。  ついさっきまで私達を攻撃していた北風が、温かい風に生まれ変わった。焼き芋に齧り付き、咀嚼し、胃の中へ。それを何回も繰り返して、あのお爺さんの優しさと、あの時のお婆ちゃんのあったかい手が記憶に思い出させてくれた。心の奥底から、その記憶がほっこりと私の全身に浸透した。  優子がふいに、口に出した。 「ねぇ亜美。私達一回、あれと同じ車を追いかけたことがあったわね……」 「うん、そうだねぇ」 「あのお爺さん、気づいてくれてたかなぁ」 「…どうだろう、ねぇ」  私には、分からない。あの時の記憶は定かじゃないもの。  でもお爺さんが売っていた、『ほっこり焼き芋』というメニュー名は変わっていなかった。  変わっていなかったことが嬉しい。こうして、焼き芋屋さんは私達の心にいつまでも残ってゆくのだろう。  あの尊い、歌声と共に。
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