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ただ、ほっこりしたい
「いしやぁ~~きいもぉ~…」
「あ」
部活終わりの、帰り道。
もうすぐ、山間に消えそうな夕日のほうから、のん気な歌声が響いてくる。
私はそれを待っていた。
優子もそうみたいで、うきうきと嬉しそうに鞄を振り回す。
「それにしてもさぁ、いっつも聞き取れないよね、あの歌声」
たしかに。石焼き芋、はかろうじで聞き取れるけれど、その後が、なんだかふにゃふにゃしていて分からない。
私達は、今度はもっと良く耳をすませた。
『……おいもっ』
「あっ! 今、おいもって言ったぁ!」
優子がはしゃぎ出す。
「シッ!」
よく聞こえないよ。私は人差し指を鋭く立てた。
優子はしゃんと静まりかえった。
『ほっか~ほっかのぉ~、焼きたて』
なんだぁ、ちゃんと聞けば分かるじゃない。
私は安心して、優子の手を引く。
「焼きたてだって! 早く行こう」
北風が私達に向かってくるけど気にしない。煌々とオレンジ色に光り輝く夕日に向かって走り出した。
ちょっとブレザーが窮屈だな。スカートは短くしてるから、邪魔じゃないけど気になるな。 …ま、いっか! 走れば焼き芋が待っている。
「「おいも~っ!」」
2人で息揃えて叫ぶ。辺りに人はいない。
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