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穏やかだった恵美子の口調が棘を含んだものに変わっていった。
母の心情を察したのか、歩きながら話しているらしい綾香は少し声を落とし、遠慮がちに入ってくる。
「ママ、私はママと違ってあの家の財産なんていらないの。
私が欲しいのは、貴臣だけだから」
そこよ、と恵美子は前を見据えた。
「綾香、そんなこと言わないで。
あの家の財産だって大事。
それに、あなたが幼い頃から欲しがっている貴臣は、あの子を追い出さないとどうにもならないわよ」
「どういう、こと?」
「貴臣の中に残る影を排除しなきゃいけないの」
「ママ……」
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