1 はじまりのはじめ(刈谷 湊)

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「叔母さんありがとう」 「二人共、いってらっしゃい」  シートベルトを外し、助手席のドアを開ける。アスファルトに踏み出した足を蹴り上げ、素早く車外へ出る。朝の駅前ロータリーでもたつく訳にはいかない。見れば朝陽も既に車から出ている。 「行ってきます」  車に手を振り、改札へと急ぐ。駅構内は通勤通学のサラリーマン、OL、学生で混雑している。それらの波に乗りながら二人は改札を通り抜け、目的のホーム目指して階段を上る。  朝の通勤時間帯は苦手だ。基本的に人が多い場所が苦手な湊は電車内のなるべく空いていそうな場所でつり革に手を伸ばす。それでも隣には朝陽がいるので、幾分かは気持ちも落ち着いている。  土日と違い平日朝の車内は混雑の割に比較的静かだ。女子高校生のグループでもいれば騒がしい時もあるが、近くにはサラリーマンばかりだ。揺れに身を任せながら、湊はコートのポケットからスマートフォンを取り出す。  今日のスケジュールの変更がない事を確認すると、またポケットに仕舞う。  ごく稀にだが、視線を感じる事もあるが今日は誰も自分達を意識していない。  隣に立つ朝陽を見上げる。身長は自分よりも10センチ以上高い、羨ましいのと妬ましいのが半々。染めていない黒い髪、切りたいとたまにぼやいているけれど湊から見れば、目に掛かるか掛からない程なので短い方ではないかと思っている。  自分の髪型と言えば、切るのが面倒なので適当に伸ばしていたら、マネージャーがそのままにしていなさいなんて言うので、あと少しで肩まで到達しそうだった。  身長は170センチ以下、華奢な体付きで肩に掛かりそうな染めていない黒髪。きめ細やかな白い肌は以前はコンプレックスでもあったが、今の仕事に着いてからはこれを維持した方がいいのではと、面倒でも日焼け止めを塗っている。  顔の作りは湊自身普通だと思っている、朝陽みたいな男っぽいカッコよさもないし、メンバー内に居るような可愛い系というのとも違う。普通だ。あまり容姿に興味ないので、湊自身は自分の容姿に自信もないので「かっこいい」「かわいい」と言われる度内心首を傾げている程だ。  自分は仕方ないけど、朝陽なら気付かれてもいいのに、なんて思いながら見つめていると急に目が合った。 「?」  何?という視線。湊は何でもないと首を振り答えた。
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