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こどもの証
若葉色の葉の隙間から、陽が漏れ出していた。石畳の道には蝉の声が響いている。
連日、記録的な猛暑が続く今年の夏は、いつにも増して蝉時雨が煩い。あまりの暑さに汗が額を伝うと、胸ポケットの携帯が振動し、俺は足を止めた。携帯を取り出し、画面を見ると、待ち合わせている相手からのメッセージが表示されている。
「いつものファミレスで待ってる」
無駄な文字のない単調なメッセージだ。ただ「了解」という2文字だけを送り、時刻を確認する。10時10分。待ち合わせの時間から10分ほど遅れていた。携帯をポケットにしまい、今度は少しばかり駆け足でファミレスへ向かう。夏の生ぬるい風が、体を抜けていった。
店内は空調が効いていて、蒸された体が簡単に冷えていく。
「待ち合わせです」
店員に伝えると、店員は愛想笑いを浮かべ、店内へ促した。
奥の方を一瞥して、待ち合わせ相手を見つける。すでに彼女は俺が来たのに気付いていて、笑顔で手招きしていた。
窓際のよく陽が差し込む席に、彼女は座っている。
「遅れてごめん」
頭を掻きながら謝ると、彼女は無邪気な笑顔のまま柔らかい口調で言った。
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